スポーツ外傷・障害
熱中症
熱中症とは
暑熱環境により生じる様々な病態の総称
高温・多湿・日射などの環境では身体から熱を放散する事が難しくなります。
その様な環境で運動すると身体には大量の熱が蓄積され体温が著しく上昇します。
これに対して体温調節機構が働き末梢血管拡張・大量の発汗が起きます。
しかし、水分や塩分が適切に補給されないと、脱水・体液の塩分濃度低下・血圧低下をきたし様々な病態を呈します。
熱中症の分類
熱けいれん
大量の発汗に対して塩分を補給せず、水分のみを摂取したために低ナトリウム血症となる。
症状:手足や腹筋などのけいれん
熱失神
末梢血管の拡張、発汗による脱水により脳の血流量が低下する。
症状:めまい,失神(数秒程度以内)
熱疲労
脱水と電解質(塩分)の喪失により、末梢循環不全による虚脱に発展。
血圧が低下し、弱くて速い脈となる。蒼白な皮膚、大量の発汗などがみられる。
自覚症状はみられるが、体温調節機構は保たれ意識障害もない。
症状:倦怠感,疲労感,虚脱感,めまい,頭痛,吐き気,嘔吐
熱射病
体温調節機構が破綻し、異常体温と循環不全に陥り、中枢神経系を含めた全身の多臓器障害をきたした状態。
症状:40℃を超える高体温,運動失調,全身けいれん,昏睡など中枢神経症状を呈す。
※横紋筋融解や臓器の細胞破壊から、ショック・肺水腫・急性腎不全・肝不全などを起こす。
横紋筋融解症の症状:体中の筋肉が痛い、力が入りにくい、歩行しづらい、赤褐色の尿が出る。
熱中症の対処
熱中症の手当ては一般に発症から20分以内の手当てが必要です!
- 涼しい場所に運ぶ(風通しの良い日陰など)・衣服をゆるめて寝かす(身体を冷却しやすい状態にする)
- 氷嚢やアイスパック(濡らしたタオルやケミカルパックも可)をくび・わきの下・股関節の付け根に当てて血液を冷やす
- 顔色が蒼白で脈が弱く速い場合は、仰向けで脚を約30℃挙上させる(血流量が低下した脳に血液を送るため)
- 水分補給
冷たい飲み物は胃の表面で熱を奪ってくれるので、冷たい水またはスポーツドリンクを補給。
熱けいれんの場合は生理食塩水(0.9%)を飲ませる。(例:水500㎜に対して食塩4.5g+少量の糖分)
スポーツドリンクでも代用可能ですが、スポーツドリンクは糖分濃度が高く、吸収に時間がかかるので水や氷で少し薄めて飲むと良いです。
口からの摂取が困難な場合は点滴が必要。
熱射病の80%は熱中症の他の病型を経ることなく急に発症します。
そのため迅速な対応や予防がとても重要です!
熱射病の疑いがある場合は冷却の処置を行いながら、すぐに医療機関へ搬送してください。
体温を速やかに低下させる事が必要であり、冷却処置が最も重要です!
発症から40分以内に体温を下げる事が出来れば合併症の発生もなく、確実に救命することが可能となります。
応答が鈍い・言動がおかしいなど、少しでも意識障害がある場合には熱射病を疑って処置を行ってください。
意識の有無とバイタルサイン(脈拍・呼吸・血圧・心拍数・体温)のチェックも行います。
熱中症の予防
環境条件の把握
熱中症の予防には、その日の気温だけを気にするのではなく、暑さ指数WBGT(湿球黒球温度)を用います。
WBGTは人体の熱収支に影響の大きい湿度、放射、気温の3つを取り入れています。
湿球黒球温度計を用いて測定される場合が多く、湿球温度、黒球温度、乾球温度の値を使用します。
湿度が高い場合(雨天や室内)は参考気温よりも1ランク上の環境条件の注意が必要です。
気温が30℃に満たない場合、湿度60~80%で最も死亡率が高いので特にこのような環境では注意してください。
運動は1番気温が上がる昼間(11時~15時)を避けて涼しい時間帯に行う。
水分補給
休憩と水分補給を頻繁に(20~30分に1、2回)とる。
※運動強度が高い場合は10分毎ごとにとる。
汗には塩分が含まれるので水より食塩水(スポーツドリンクも可)が良い。
体重の3%以上の水分が失われると体温調節に影響。
→運動前後の体重減少が2%以内に収まる水分補給。
暑熱馴化(暑さに慣れる)
熱中症の死亡事故は急に暑くなる7月下旬から8月上旬に多い 。
3~4日で発汗量及び循環調節などの体温調節反応に約80%の馴化が生じるので、合宿などの際は初日からハードな練習を行うのではなく徐々に本格的な練習を行うのが望ましい。
個人条件の配慮
下痢・発熱・疲労など体調が芳しくない場合無理な運動は避ける。
体力の低下、肥満、暑さに慣れてない場合運動を軽減する。
子どもや高齢者は脱水になりやすく体温調節能力も低い為要注意。
服装
軽装を心がける
夏場の長袖のインナーは汗でボールや道具がすべるのを防止でき、日射も防ぐことが出来るので着用されていますが、夏用・冬用・春秋用3タイプに分け販売されているのでしっかりと使い分け着用しましょう。
吸湿性、通気性の良いものを使用。
直射日光を帽子で防止。
まとめ
熱中症は梅雨明けで急に暑くなる7月~8月に多くみられます。気温が30℃に満たない場合でも、湿度が高いと熱中症は発生するので、5月~10月までは注意が必要です。
屋内、屋外関係なく起こり、運動時間より運動強度や環境条件に左右される場合が多いです。
スポーツ種目では野球・サッカー・ラグビー・柔道・剣道に多くみられると言われています。
発生要因に当てはまる項目が増えれば増えるほど熱中症にかかるリスクも高くなってしまいます。
重症度・予防法・対処方法を覚えておけば、実際の現場でも対応できるのでしっかりと頭に入れて熱中症にかかることなく夏を乗り越えましょう!
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